突然ですが、皆さんはテニスの練習中に、コーチからこんな言葉をかけられたことはありませんか?
「スプリットステップをして!」 「足が止まってるよ!」
正直なところ、この言葉を聞くたびに、「またか…」と思ったり、「やってるつもりなんだけどな…」と感じたりすることはありませんか? あるいは、「スプリットステップって、ただタイミングよくジャンプするだけでしょ?そんなに大事?」と、心のどこかで軽視してしまっている方もいるかもしれません。
派手なエースを奪うストローク練習やボレー練習に比べると、どうしても地味で、面白みに欠けるこの基礎練習。 しかし、断言させてください。
もしあなたが、「もっと速くボールに追いつきたい」「あと一歩が届かない」と悩んでいるなら、その答えはラケットの振り方でも、筋トレでもありません。 答えは全て、この「地味なスプリットステップ」の「本当の」使い方に隠されています。
普段、私はレッスンの中で、少し変わったフットワークの指導をしています。 それは、「進みたい方向とは『逆』に足を出す」という動きです。 一見すると遠回りに見えるこの動きと、スプリットステップを掛け合わせた時、あなたの動きは劇的に変わります。まるで背中にジェットエンジンがついたかのように、爆発的なスピードが生まれるのです。
今回は、「なぜトッププロはあんなに速く動けるのか?」という秘密を、物理や身体の仕組みというちょっとマニアックな視点から、でも専門用語を使わずに分かりやすく、たっぷりと解き明かしていきたいと思います。
これを読み終える頃には、明日からの「地味な」ステップ練習が、自分だけの「秘密兵器」を磨くワクワクする時間に変わっているはずです。 少し長くなりますが、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
1. スプリットステップの「誤解」と「正体」
まず最初に、皆さんが持っているスプリットステップのイメージを、少しだけアップデートさせてください。
多くの人が、スプリットステップを「相手が打つ前にする予備ジャンプ」だと思っています。 「ジャンプ」という言葉のせいか、高く飛ぼうとしたり、大きく足音を立てて着地したりする姿をよく見かけます。 しかし、実はこれ、大きな間違いなんです。
スプリットステップの本質は、「飛ぶこと(ジャンプ)」ではありません。
「抜重(ばつじゅう)」と「着地」、そして「リセット」の技術なんです 。
高く飛ぶ必要なんて全くありません。むしろ、高く飛びすぎて空中にいる時間が長くなればなるほど、その間は身動きが取れず、逆に相手の速いボールに反応できなくなってしまいます 。 本当に上手い選手のステップを見てみてください。彼らはほとんど飛んでいません。膝や股関節の力をスッと抜いて、重力に任せて「落ちる」ように着地しているはずです 。
では、なぜ世界中のトップランカーたちが、どんなに疲労困憊していても、必ずこの「小さなステップ」を踏むのでしょうか? それには、単なる「準備運動」では片付けられない、試合を支配するための3つの重要な役割があるからなんです。
2. 実はすごい!スプリットステップ「3つの真の役割」
この3つの役割を深く理解するだけで、コート上での景色の見え方が変わります。
① 動きの「リセットボタン」を押す
テニスは、常に動き回るスポーツです。 右へ左へ、前へ後ろへ。しかし、物理の法則として、右に全力で走っている最中に、急に左に戻ることはできません。走っている車がいきなりバックできないのと同じで、慣性の法則が働くからです。 そのまま無理やり逆方向へ行こうとすれば、バランスを崩したり、足がもつれたりしてしまいます。
そこで必要になるのが、「一度、動きをゼロにする」という作業です。 スプリットステップで一瞬だけ空中に浮くこと。これは、それまでの「走る勢い」や「バランスの崩れ」を断ち切って、どこへでも動ける「ニュートラル(中立)な状態」に戻すための「リセットボタン」を押すようなものです 。
前のプレーで体勢が崩れていても、このボタンを一回「ポチッ」と押すだけで、身体は「はい、次はどっちでも行けますよ!」という準備万端な状態(ゼロの状態)にリセットされます 。このリセット機能こそが、連続するラリーの中で安定して動き続けるための命綱なのです。
② 強制的に「見るスイッチ」を入れる
これは意外と気づかれていない、でもめちゃくちゃ大事な「脳へのメリット」です。
スプリットステップを成功させるための絶対条件をご存知ですか? それは、「タイミング」です。 相手のラケットがボールを捉えるその瞬間(インパクト)に合わせて、自分が着地できるように調整しなければなりません 。
つまり、「ステップしなきゃ!」と意識することは、脳に対して「相手が打つ瞬間をよーく見ろ!」と強制的に指令を出すことと同じなんです 。 ただなんとなくボールを目で追うのと、「この瞬間に合わせるぞ」と狙って見るのとでは、集中力が全く違います。 スプリットステップを意識すると、自然と相手のフォーム、ラケット面の向き、身体のひねり具合などを凝視するようになります 。
「足が速い」と言われる選手の多くは、実は足そのもののスピードが特別速いわけではありません。この「観察」によって、誰よりも早く「スタートの合図」を受け取り、予測の精度を高めているからこそ、一歩目が速いのです 。
③ 「リアクション(反応)」を爆発させる
そして、これが今回一番お伝えしたい、身体操作の核心部分です。
人間は、完全に止まった状態(静止状態)から「よーいドン!」で動き出すよりも、「動きの中で次の動作に移る」方が、圧倒的に速く、強い力を発揮できます 。 これを専門的には「伸張反射(しんちょうはんしゃ)」や「ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)」と呼びますが、理屈は簡単です。
ゴムを想像してください。ゴムは一度引っ張ってから離した方が、強く弾きますよね? あるいは、スーパーボール。高いところから落とした方が、地面に当たった瞬間に勢いよく跳ね返ります。
スプリットステップも同じ原理です。 軽く浮いて、重力を使って着地する。その着地の衝撃を、地面から返ってくるエネルギー(地面反発)として利用することで、自分の筋力だけで踏ん張るよりも、遥かに楽に、そして爆発的に「パンッ!」と飛び出すことができるのです 。 これは「筋力」の強さではなく、「タイミング」と「リズム」を操るテクニックです。
3. なぜ「逆方向に足を出す」と速くなるのか?
さて、ここからが応用編であり、私が普段のレッスンで口酸っぱく言っている「あの動き」の解説です。
- 「前にダッシュしたいなら、片足をちょっと後ろに引く」
- 「右(横)に行きたいなら、左足を外側に動かす」
初めて聞いた時は、「え? 進みたい方向と逆じゃん! 遠回りじゃない?」と驚かれた方も多いと思います 。 「最短距離を行くなら、そのまま出した方が速いのでは?」と。
しかし実はこれ、先ほど説明した③「爆発的なリアクション」を生むための、物理的に一番理にかなった動きなんです。
「傾き」こそがスピードの正体
ちょっと理科の実験みたいになりますが、直立した棒を想像してみてください。 地面に対して垂直に立っている棒は動きません。しかし、少し傾けて手を離せば、その方向へ勝手に倒れていきますよね? 人間も同じなんです。
速く動くためには、足の筋肉で頑張って地面を蹴る前に、まず自分の重心(おへそあたり)を「進みたい方向」へ倒してあげる(崩す)必要があります 。
- 「足を後ろに引く」とどうなるか? 支えとなる足を後ろに下げることで、身体の重心は支えを失い、前の方に倒れ込みます(前傾姿勢)。同時に、引いた後ろ足が地面を強く蹴るための「スターティングブロック(発射台)」になります。
- 「左足を外側に出す」とどうなるか? 右に行きたい時、左足を外側(左)に踏み出すことで、身体の重心は右側に残され、結果として右へ傾きます。そして、外に出した左足が強固な「壁」になって地面をグッと押してくれるので、その反作用で右方向へ勢いよく飛び出せるんです 。
つまり、私が指導している「逆方向に足を出す」という動きは、単なる足踏みではなく、「重心を移動させて、地面を強く蹴るための”発射台”を瞬時に作る作業」そのものなんです 。
4. 「スプリットステップ」×「逆足」= 最速の一歩!
「理屈は分かったけど、それをやるのは難しそう…」 そう思いましたよね?
確かに、地面にベタっと足がついた状態(摩擦が働いている状態)から、「一度足を引いて…それから蹴る!」なんてやっていたら、どうしても「よいしょ、こらしょ」という遅い動きになってしまいます 。ワンテンポ遅れてしまうんです。
そこで登場するのが、今回の主役である「スプリットステップ」です。 このステップが生み出す「空中にいる時間」こそが、全てを解決する魔法の時間なんです。
空中なら「摩擦ゼロ」で準備完了!
スプリットステップで身体がほんの数センチ、ほんの一瞬浮いている間。 この間、足と地面の摩擦はゼロになります 。足は自由です。 この「浮いている一瞬」を使って、空中で足を動かしてしまうんです。
トッププロの頭の中と身体の動きをスローモーションで見ると、こんなことが起きています。
- 【リセット&観察】 相手がテイクバックを完了し、ラケットを振り出す直前。ここでスプリットステップをして、ふわっと浮きます 。身体はリセットされ、目はボールをロックオンしています。
- 【空中での判断と準備】 相手のインパクトの瞬間、自分はまだ空中にいます 。 このコンマ数秒の間に「ボールは右に来た!」と脳が判断します。 そしてここが重要! まだ空中にいる間に、左足を外側に開く準備をしちゃいます 。空中で足の形を変えるんです。
- 【着地と同時の爆発】 着地した瞬間には、もう「右に行くために、左足で地面を蹴れる完璧な形(ガニ股のような形)」が出来上がっています 。 着地の衝撃(地面反発)を、そのまま左足の蹴り出しに乗せて、ドカン!と右方向へ飛び出します 。
通常なら、 「①着地する」→「②判断して足をセットする」→「③蹴り出す」 という3ステップが必要なところを、スプリットステップの中に足のセットを組み込むことで、 「着地した瞬間にはもうスタートが切られている(①+②+③が同時)」 という状態にする。
これが、トッププロが「瞬間移動したかのように速く見える」カラクリであり、「スプリットステップ」と「逆足操作」が融合した時の威力なんです。
5. 難しい…でも目指す価値がある「世界」
今回お話しした、「スプリットステップ(タイミング)」と「逆方向への足のセット(重心移動)」を同時に行うという技術。 正直に言います。これはかなりハードルの高い技術です。
なぜなら、2つの高度な「同調(シンクロ)」が求められるからです。
一つは、「相手との同調」。 相手が打つ瞬間に、自分が早すぎず遅すぎず、ちょうど空中に浮いていないといけません 。 もう一つは、「脳と身体の高速通信」。 「右だ!」と見てから着地するまでのほんの一瞬で、無意識に足をコントロールしなければなりません。頭で「えーっと、右だから左足を…」と考えていては間に合わないのです 。
まさにプロ級の技です。 「そんなの無理だよ」と思うかもしれません。
でも、テニスのレベルが上がれば上がるほど、ボールは速くなり、考える時間は削ぎ落とされていきます。 「足の速さ(脚力)」そのものには、年齢や体格による限界があります。しかし、「動き出しの早さ(反応)」という技術には、限界がありません。練習次第で、誰でも、何歳からでも伸ばすことができるんです 。
まずは「意識」を変えるところから始めよう
今まで「地味で面倒くさい基礎練習」だと思っていたスプリットステップ。 でもこれからは、練習の時にほんの少しだけ意識を変えてみてください。
「この一瞬のジャンプは、ただの休憩じゃない。次の一歩を爆発させるための”発射準備”なんだ」と。
「着地してから動く」のではなく、「着地した瞬間には、もう行きたい方向へ飛び出している」。 そんなイメージを持って、相手のインパクトをじっと見つめ、タイミングを計ってみてください 。
最初はうまくいかなくても大丈夫です。人間の脳と身体が変わるには時間がかかります。 でも、その感覚が掴めた時、あなたのフットワークは「頑張って走るもの」から、まるでバネ仕掛けのおもちゃのように「勝手に身体が弾き出されるもの」へと進化しているはずです。
その時、あなたはきっと、あの「地味な」スプリットステップのことが、大好きになっていると思いますよ。 さあ、次のレッスンから、こっそりこの「秘密兵器」を磨いて、周りのみんなを驚かせてやりましょう!
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