こんにちは! 前回は「テニスコーチになるための切符」について書きましたが、今回はその列車に乗った後の「旅の続け方」についてお話しします。
正直な話をします。テニスコーチとしてただ漫然と働いているだけでは、キャリアは頭打ちになります。「テニスが好き」という気持ちだけでは乗り越えられない壁が、必ずやってくるからです。
では、どうすればいいのか? その答えは、「レッスン以外の解像度を上げること」にあります。
目次
レッスンに「逃げる」な。高水準の当たり前を作れ
テニスコーチの仕事といえば、当然「テニスレッスン」です。 多くのコーチが、ドリルを考え、フォームを研究し、レッスン内容にこだわります。もちろん、それはとても大切です。商品がおいしくないレストランには誰も行きませんからね。
しかし、ここで残酷な現実をお伝えしなければなりません。 「良いレッスンができる」というのは、プロとして「当たり前」の評価基準でしかないのです。
新人の頃は「ちゃんとレッスンを回せるようになったね」「声が出るようになったね」と評価されます。でも、それはあくまでスタートラインに立っただけ。多少の教え方のうまい・下手はあっても、ある程度の期間やれば誰だって標準的なレッスンはできるようになります。
つまり、レッスン内容だけで差別化を図ろうとしても、そこでの評価はすぐに頭打ちになるのです。「あのコーチはテニスがうまいレッスンがうまい」だけでは、会社からの評価は上がりきりません。
まずは、早々に「高水準のレッスン」を息をするようにできるようになり、余ったリソースで「レッスン以外の価値」を生み出す必要があります。
では、その「高水準」とは具体的に何を指すのでしょうか? 単にボールを打たせるのがうまいことではありません。以下の3つの要素が揃って初めて、プロの仕事と言えます。
1. テニス理論の「軸」を作る(物理学と心理学の融合)
あなたの指導には「軸」がありますか? 「なんとなくこう打った方がいい気がする」では、プロとは言えません。
スポーツは物理現象です。ですから、「物理学」をベースに理論を構築する必要があります。 ボールを飛ばす運動エネルギー、回転の原理。これらは嘘をつきません。ここに、人間の体の構造である「生体力学(バイオメカニクス)」を組み合わせ、無理のない動きを導き出します。
そして忘れてはいけないのが、「テニスはメンタルスポーツ」だということ。 物理的に正しい動きであっても、それがプレイヤーにとって恐怖心を煽るものであれば意味がありません。「物理的に効率よく」かつ「心理的負荷が少ない」動き。この最適解を探るのがプロの仕事です。
物理学という絶対的な基準を持つことは、コーチ自身を守る武器にもなります。 専門知識が増えると、私たちはつい「専門知識の逆襲(知識があるがゆえに大まかにしか見なくなる)」や「動機づけられた推論(自分の好きな理論を正当化してしまう)」といった「知性の罠」に陥りやすくなります。 しかし、常に「物理的に矛盾がないか?」を問うことで、この罠を回避し、冷静な分析ができるようになるのです。 これは全員に同じ型を押し付けることではありません。普遍的な土台(物理)があるからこそ、個々の生徒さんに合わせて迷いなくカスタマイズができるのです。
2. コンセプトとゴールを見せる(不安の解消と迷いの排除)
高水準なレッスンにおいて、技術以上に重要なのが「プレゼンテーション能力」です。 ここでは、受け手(生徒)の「不安の解消」と、提供者(コーチ)の「迷いの排除」がキーワードになります。
想像してみてください。行き先が表示されていない電車に乗るのは怖いですよね? テニスレッスンも同じです。「この練習をして、結局どうなれるの?」というゴールが見えないと、生徒さんは無意識に不安を感じ、集中できません。
そこでコーチに必要なのは、映画の予告編のような「ガイド役」です。 映画のポスターに「全米が泣いた」と書いてあれば、観客は「これは泣ける物語なんだ」と準備をして映画館に入れます。 レッスンも同様に、「今日の練習は、競った場面でミスをしないための『守りの要』を作る練習です」と最初にガイドを示すのです。
こうして先に「構造(コンセプト)」を提示することで、生徒さんは安心します。 それだけでなく、一見自分には関係なさそうなプロの高度な理論も、「あ、これは私の悩みを解決するための話なんだ」と「自分事」として捉えてくれるようになります。
コンセプトが明確になれば、コーチ自身も「今日は何をしようかな…」と迷うことがなくなります。生徒もコーチも、ブレずに一直線にゴールに向かえる。これが高水準のレッスンです。
3. 内性的有能状態の維持(永遠の初心者視点)
経験を積めば積むほど、私たちは「慣れ」てしまいます。 しかし、本当に優れたコーチは、熟達した今だからこそ、初心者のような繊細な注意力を持っています。これを「内性的有能状態」と言います。
「前はこのアドバイスでうまくいったから、今回もこれでいいだろう」 そんな慢心こそが判断ミスの元です。目の前の生徒さんは、前の生徒さんとは違います。 自分のアドバイスの引き出し(データベース)を過去の遺産にするのではなく、常に最新版にアップデートし続ける。 「本当にこの伝え方でベストか?」と自問自答し続ける姿勢こそが、高水準を維持する鍵なのです。
会社が本当に求めている「成果」とは?
さて、ここまでは「コーチキャリアの序盤」の話です。 ここからが本番。テニスコーチとして会社からの評価を上げ、キャリアアップしていくための深層部に入っていきます。
前回、資格について触れましたが、正直なところ資格の重要性は会社の方針次第です。 キャリアアップの要件になっているなら取るべきですが、それはあくまで形式的なパスポート。本質ではありません。
会社が認める「本質的な評価」とは何か。 それはシンプルに、「成果を出せる人材」であることです。 そして、営利組織であるテニススクールにおける成果とは、綺麗事抜きで「売り上げの向上」です。
「売り上げ」と聞くと、「高いラケットを売りつければいいのか?」と思うかもしれませんが、そうではありません。コーチとしての品格を保ちながら、健全に売り上げに貢献する3つの方法を紹介します。
1. 単価を上げる(Win-Winの値上げ戦略)
安易な値上げは顧客離れを招きます。しかし、工夫次第で実質的な単価を上げることは可能です。
その代表例が「イベントレッスン」です。 通常のレッスンよりも時間を長く設定することで、時間単価を変えずに、1回あたりの収益(客単価)を上げることができます。 重要なのは、これを単なる「会社の集金システム」にしないこと。
「いつもより長い時間、特定のテーマをみっちり練習できる」 「普段のレッスンではできない、ビデオ分析がついている」
このように、生徒さんにとっても「通常レッスンとは違う特別な体験」という付加価値をつけることで、Win-Winの関係を築くのです。 「高くても受けたい!」と思ってもらえれば、それはブランドになります。例えば「試合に勝つための戦術特化クラス」など、前述した高水準のレッスン力と理論があれば、企画のアイデアは無限に湧いてくるはずです。
逆に、安易に値下げして集客しようとするのはNGです。それはコーチ自身の価値を下げ、長期的にはスクールのブランドも傷つけます。安売りをするコーチの評価は、間違いなく地に落ちます。
2. 販売回数を増やす(「個」ではなく「組織」のファン化)
多くのテニススクールは、月謝制という「継続課金システム」を採用しています。 このモデルで売り上げを最大化するには、新規を増やすこと以上に「退会率を下げる(継続期間を延ばす)」ことが重要です。
よく言われるのが「生徒のファン化」です。 「〇〇コーチのレッスンが楽しいから辞めない」というのは確かに強力です。しかし、会社運営の視点から見ると、これには危うさがあります。 「〇〇コーチが辞めたら、生徒も一斉に辞める」「〇〇コーチのクラス以外には振替してくれない」 これでは、スクール全体の稼働率(充足率)が安定しません。
新人のうちは、自分のクラスを満員にするためにガツガツ頑張る必要があります。 しかし、ベテランコーチに求められるのは、「充足率のアンバランスを調整する力」です。
自分だけが生徒を抱え込むのではなく、まだ経験の浅い後輩や部下のコーチにも生徒さんがつくように誘導できるか。 「僕のクラスはいっぱいだけど、このクラスを担当している〇〇コーチは、ボレーの指導がすごく上手ですよ」 そんなふうに、生徒さんをスクール全体に循環させられるコーチこそが、本当に会社から重宝される人材です。
会社は多額の宣伝広告費をかけて集客しています。 求められているのは「個人のファン」を作ること以上に、「スクールのファン」を作れる能力なのです。
3. 新規集客(コストゼロの最強アピール)
これができれば、間違いなくトップ評価につながります。 「新規集客」とは、体験レッスンに来た人を逃がさないことではありません。それは「入会率」の話です。他のクラスの生徒さんを自分のクラスに入れる事でもありません。それは「充足率」の話です。 本当の集客とは、「スクールの外にいる人を、スクールの門まで連れてくること」です。
今なら、SNS(Instagram, YouTube, TikTokなど)を使わない手はありません。 認知を広めることが宣伝の第一歩ですが、SNSならそれをコストをかけずに行えます。 「SNSやってます」というコーチは増えましたが、会社やスクールのアカウントを運用し、戦略的に継続できている人は稀です。
「今週のレッスンの様子」「コーチのワンポイントアドバイス」「キャンペーン情報」 これらを地道に発信し続け、スクールへの問い合わせ動線を太くする。 レッスンの合間にスマホ一つでできるこの行動は、実はレッスンそのものと同じくらい、あるいはそれ以上に「会社への貢献度」が高い施策です。
評価の本質は「成果」ではなく「行動」にある
ここまで「売り上げ」の話をしてきましたが、ここでパラダイムシフト(考え方の転換)を起こしましょう。
実は、評価において最も重要なのは、「評価は成果のみに依存しない」ということです。
「えっ、成果を出せって言ったじゃん!」と思いますよね。 もちろん成果が出ればベストです。しかし、ビジネスの世界では、狙った施策が必ず当たるとは限りません。 会社が評価するのは、「たまたまラッキーで成果が出た人」よりも、「成果を出すために、論理的な仮説を立てて行動し続けている人」です。
実際に数字としての成果が出なくても、「何もやっていない(ただレッスンをしているだけの)人材」より、試行錯誤している人間の方が確実に評価されます。 むしろ、何か別の要因でスクールの売り上げが上がった時、「あいつはいつも色々考えて動いていたからな」と、直接関係のない施策までポジティブに評価されることすらあります(ハロー効果に近いものです)。
せっかくテニスコーチというクリエイティブな仕事に就いたのです。 マニュアル通りのレッスンをして、時間になったら帰る。それではあまりにもったいない。 「どうすれば生徒さんが喜ぶか?」「どうすれば人が集まるか?」 施策を考え続け、行動し続けること。それは会社のためであると同時に、あなた自身のビジネススキルを磨く、最高の「自己投資」になります。 しかも、会社のリソースを使って実験できる、コストのかからない自己投資です。
第4章:ピンチをチャンスに変える「ミスの分析術」
行動すればするほど、失敗の確率も上がります。 人間ですから、必ずミスは起きます。イベントの集客に失敗したり、生徒さんからクレームがきたり、事務処理を間違えたり。
そんな時、どう対処しますか? ただ「すみません、以後気をつけます」と謝って終わらせていませんか? それでは三流です。評価されるコーチは、ミスの対処法さえも「プレゼンテーション」の場に変えます。
自分が悪くない場合でも、あるいは自分に原因がある場合でも、必ずやるべきこと。 それは、「上司の不安を取り除くための分析レポート」の提出です。
1. 目的の再定義:「再発防止」ではなく「不安の除去」
一般的に、ミスを分析して報告書を書く目的は「再発防止(自分が同じミスをしないため)」だと思われています。 しかし、視点を変えてください。目的は「上司の不安を取り除くプロセス」です。
部下がミスをした時、上司の頭の中を占めるのは「怒り」よりも「不安」です。 「こいつ、また同じミスをするんじゃないか?」「根本的に分かってないんじゃないか?」 この不安に対して、ただの精神論(「頑張ります」「気をつけます」)で返しても、不安は消えません。 逆に、論理的で詳細な分析を見せることで、「なるほど、こいつはここまで深く原因を構造的に理解している。なら、もう二度とミスらないだろう」と、理屈で安心させるのです。
2. 具体的なやり方:脳内の処理をあえて可視化する
自分の中では「次はこうすればいいや」と分かっていることでも、それをあえて言語化して提出します。
背景: どういう状況・環境でそのミスが起きたのか。
原因: 何が直接のトリガーだったのか(不注意ではなく、システムやフローの欠陥を探す)。
対策: 次からはプロセスをどう変更して防ぐのか(精神論ではなく具体的な行動変容)。
ポイントは、「ここまで考えています」という姿勢をアピールするために、わざわざ丁寧に書いて提出することです。
3. 効果:ミスが評価に変わる
この「ミスの分析術」を実践すると、不思議なことが起きます。
評価が上がる: ミスをしたにもかかわらず、「ここまで分析できる能力があるのか。素晴らしい」と逆に褒められます。ピンチが信頼獲得のチャンスに変わる瞬間です。
本当にミスがなくなる: 言語化することで脳に深く刻まれるため、実際にミスが激減します。結果として仕事の質が上がります。
取引先も安心させる: 上司だけでなく、もし対外的なミスだった場合も、この分析を見せることで相手の信頼を回復できます。
つまり、この分析術は謝罪ではありません。 「私はこの問題を完全にコントロール下に置きました」という事実を可視化し、上司に安心感という『成果』を提供する、高度なプレゼンテーション技術なのです。
これは「社内政治」のように見えるかもしれませんが、結果として本人の仕事の質を高め、周りからの信頼も厚くなるため、極めて合理的で賢い仕事術と言えます。
最後に:テニスコーチという生き方
長くなりましたが、テニスコーチとして生き残るための戦略をお伝えしました。
- 物理と心理に基づいた「高水準のレッスン」を当たり前にする。
- 単価アップ・組織的な定着・新規集客で「売り上げ」に貢献する。
- 成果が出なくとも、「行動」し続ける姿勢を見せる。
- ミスをした時こそ、圧倒的な「分析」で信頼を勝ち取る。
これらはすべて、テニスコートの上だけで完結する話ではありません。 マーケティング、心理学、プレゼンテーション、リスクマネジメント。 テニスコーチという職業を深掘りすればするほど、そこにはビジネスのすべてが詰まっていることに気づくはずです。
「テニスコーチ=テニスを教える人」という枠を、自分で壊してください。 あなたは、テニスというツールを使って、顧客の人生を豊かにし、スクールというビジネスを回し、自分自身の市場価値を高めていくプロフェッショナルです。
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