今回はテニスラケットの選び方を紹介します。
テニスを始めようと思った時、あるいは「そろそろ新しいラケットが欲しいな」と思った時、ショップの壁一面に並べられたラケットを見て途方に暮れた経験はありませんか?
「どれも同じに見える……」 「店員さんに勧められたけど、本当にこれでいいのかな?」 「カタログの数字を見ても、ちんぷんかんぷん……」
その気持ち、痛いほどよく分かります。スペック表には重さや面の大きさなど、いろいろな数字が書いてありますが、それらが実際にコートの上でどう作用するのかをイメージするのは、プロでもない限り至難の業です。
でも、安心してください。 今回は、単なる「カタログスペックの読み方」だけでなく、「現代テニスの環境で生き残るための戦略」という視点からラケット選びのコツを徹底的に解説していきます。
これを読み終える頃には、あなたのラケット選びの基準はガラリと変わり、自分にとって「最強の相棒」を見つけるための地図が手に入っているはずです。 少し長くなりますが、あなたのテニスライフをより快適に、そしてエキサイティングにするための情報詰め込みました。ぜひ最後までお付き合いください!
目次
まずは「敵」を知る。現代テニスは「時間」との戦いだ
ラケットを選ぶ前に、私たちがプレーしている「現代テニス」というゲームの性質について、少しだけ考えてみましょう。ここを理解すると、選ぶべき道具の姿がはっきりと見えてきます。
昔とは違う!「飛ばない」恐怖から「飛びすぎる」恐怖へ
数十年以上前、木製のラケットが主流だった時代、テニスプレーヤーにとって最大の敵(失敗)は「ボールが飛ばないこと」でした。重くて反発力のないラケットで、いかにボールをネットの向こうへ運ぶか。それが最大の課題だったのです。
しかし、技術革新が進んだ現代はどうでしょうか? カーボンなどのハイテク素材で作られた現代のラケットは、驚くほど高性能です。軽く振っただけで、ボールはものすごい勢いで飛んでいきます。 つまり、現代の私たちにとってのリスクは、「飛ばないこと(ネットミス)」ではなく、「飛びすぎてコートに入らないこと(アウトミス)」へと変化しているのです。
「時間」という資源が枯渇している
道具の進化は、もう一つの変化をもたらしました。それは「スピード」です。 ラケットとガットの性能が上がったことで、プロだけでなく私たち一般プレーヤーのレベルでも、ラリーのスピードが格段に上がっています。
ボールが速いということは、どういうことか? それは、「準備するための時間が奪われている」ということです。 昔のように、身体を大きく使って、ゆったりと構えて打つ……なんて悠長なことをしている時間は、現代のコート上にはほとんどありません。
現代の「生存戦略」とは?
この過酷な環境で生き残る(=試合に勝つ、楽しくラリーを続ける)ためには、道具に以下の2つの仕事をしてもらう必要があります。
- 飛びすぎるパワーを「回転(スピン)」でコートにねじ込む
- コンパクトなスイングでも相手のボールに打ち負けない「操作性」と「反発力」を持つ
この視点を持った上で、具体的なスペック選びに入っていきましょう。
迷ったらここから!「黄金スペック」という羅針盤
ラケット選びには、世界共通の「基準点」が存在します。それが「黄金スペック」と呼ばれる数値の組み合わせです。 もしあなたが、「自分には何が合うのか全く見当がつかない」という状態なら、まずはこの黄金スペックを試すところからスタートしてください。
【黄金スペックの定義】
- フェイス面積(面の大きさ): 100平方インチ
- 重さ(ウェイト): 300g
- バランスポイント: 320mm
なぜこれが「黄金」なのか?
この数値は、パワー、コントロール、操作性のバランスが最も取れており、男性・女性、初心者・上級者を問わず、最も多くの人が「扱いやすい」と感じるスポットだからです。 この基準から、「もう少し軽い方がいいかな?」「もう少しトップが重い方がいいかな?」と微調整していくのが、失敗しない選び方の王道です。
カタログの裏側を読み解く!「真の扱いやすさ」を決めるマニアックスペック
さて、ここからが本題です。 カタログには「300g」と書いてあっても、メーカーやモデルによって「持った感じ」や「打った感じ」が全然違うことがありますよね? 実は、テニスのプレーに直結するのは、表面的な数字よりも、もっと奥深い「隠れたスペック」なのです。
ここからは、現代テニスの生存戦略に欠かせない、4つの重要指標を深掘りします。これを理解すれば、ラケット選びの解像度が一気に上がりますよ。
① スイングウェイト(Swing Weight): 「振った時の重さ」
ラケット選びで最も見落とされがちで、かつ最も重要な数値がこれです。 「静止重量(止まっている時の重さ)」が同じ300gでも、この「スイングウェイト」が違うと、振り心地は天と地ほど変わります。
イメージしてください: 金槌(トンカチ)を持つ時、柄の端っこを持つと重く感じますよね? でも、鉄の頭に近い部分を持つと軽く感じて振り回しやすいはずです。全体の重さは変わらないのに、「振った時の重さ」は持つ場所や重心によって変わるのです。
現代テニスでの選び方:
数値が高い(トップヘビー寄り): 遠心力が強く働きます。一度スイングを始めれば、オートマチックに強力なボールが打てます。ストロークで打ち合いたい人向けです。
数値が低い(トップライト寄り): 操作性が抜群です。ボレー戦や、速いサーブへのリターンなど、瞬時の反応が求められる場面で真価を発揮します。「振り遅れ」に悩んでいる人は、静止重量を軽くする前に、このスイングウェイトが軽いモデルを探すべきです。
② フレーム厚(Beam Width): 「パワーのアシスト装置」
ラケットを横から見た時のフレームの厚みです。これは、ボールを飛ばす「反発力」に直結します。
厚ラケ(26mm以上): 魔法の杖です。ボールを当てただけで、ポーンと弾き返してくれます。 非力な方や、コンパクトなスイングで楽に飛ばしたいシニア、ダブルス中心の方には最強の武器になります。
薄ラケ(22mm以下): 職人の刀です。自分からしっかり振っていかないと飛びません。その代わり、フレームがしなることで「ボールを乗せている時間」が長く、コントロール性能が抜群です。 「飛びすぎるのが怖い」「自分の意思でボールを操りたい」という中上級者に愛されます。
中厚(23〜26mm): 現代の主流(黄金スペック周辺)です。適度な飛びとコントロールのバランスが良く、迷ったらこの厚さを選べば間違いありません。
③ RA値(Stiffness): 「フレームの硬さ」
これもカタログには載っていないことが多いですが、非常に重要な数値です。ラケットがインパクトの瞬間に「どれくらいしなるか」を表します。
高RA(硬い): ボールが当たった瞬間にラケットが変形せず、即座に弾き返します。パワーロスが少なく、スピードボールが出やすいのが特徴。「時間がない現代テニス」において、少ない力で速い球を打ち返すのに適しています。 ただし、衝撃がダイレクトに来やすいため、打感は「カキーン」と硬めになる傾向があります。
低RA(柔らかい): インパクトでグニャリとしなります。ボールを包み込むような「ホールド感」があり、肘や手首への負担が少ないのがメリットです。 ただ、しなる分だけパワーは吸収されてしまうので、自分から振っていくパワーが必要になります。
④ ストリングパターン: 「スピンを生むエンジン」
ガットの縦糸と横糸の本数です。現代テニス最大の武器である「スピン」は、ここで決まります。
16×19(標準・粗め): 現在、最も一般的なパターンです。目が粗い=隙間が大きいということ。 ボールがガットにグッと食い込み、打った瞬間にガットがズレて戻る「スナップバック」という現象が起きやすくなります。このスナップバックこそが、強烈なスピンを生む正体です。 「飛びすぎるボールを回転でねじ込む」という現代の生存戦略においては、このパターンが基本となります。
18×20(密・細かい): 目が細かく、板のような打ち心地になります。ボールを潰してフラットに叩くハードヒッターや、絶対的なコントロールを求めるプロ選手が好みますが、スピンのアシストは少なめです。
メーカー名で選ぶな!「コンセプト」で選べ!
ラケット選びの話になると、よく「〇〇(メーカー名)は飛びが良い」「△△は打感が硬い」といった話を耳にすることがあります。 確かに、メーカーごとの「味付け」や「傾向」は存在します。しかし、現代のラケット選びにおいて、「メーカー名だけで判断すること」は非常にもったいないことです。
なぜなら、どのメーカーも、現代テニスの多様なニーズに応えるために、全く異なる性格(コンセプト)を持つ複数のシリーズを展開しているからです。
「コンセプト」を知ることが重要な理由
例えば、自動車メーカーを想像してみてください。「トヨタの車は家族向けだ」と言い切れるでしょうか? 違いますよね。家族向けのミニバンもあれば、走りを楽しむスポーツカーもありますし、燃費重視のハイブリッド車もあります。 テニスラケットもこれと全く同じです。
同じメーカーの中に、
- 「パワー重視で、相手をスピードで圧倒するシリーズ」
- 「しなり重視で、正確なコントロールを約束するシリーズ」
- 「回転重視で、グリグリのスピンがかかるシリーズ」
といった具合に、明確にキャラ分けされたラインナップが存在します。 ですので、「私は〇〇(メーカー名)が好きだから、これ!」と選ぶのではなく、「そのラケット(モデル)が、どんなコンセプトで作られたものなのか?」を知ることが、運命の1本に出会うための鍵になります。
コンセプトの見極め方
では、どうやってコンセプトを見極めればよいのでしょうか? それは、メーカーの公式サイトやカタログに書かれている「キャッチコピー」や「開発ストーリー」に注目することです。
「爆発的なパワー」「スピード」といった言葉が並んでいるなら、それは高剛性(硬め)で反発力の高い、攻撃的なラケットでしょう。
「正確なコントロール」「フィーリング」といった言葉が強調されているなら、フレームがしなりやすく、自分の技術でボールを操るタイプのラケットでしょう。
「圧倒的なスピン」「激しい回転」とあれば、空気抵抗を減らした形状や、ガットが動きやすい工夫が施された、現代テニス特化型のラケットでしょう。
メーカーは、「どんなプレーヤーに、どんなプレーをしてほしいか」を明確にイメージして設計しています。 その「開発者の想い(コンセプト)」と、あなたの「やりたいテニス(生存戦略)」が合致した時、そのラケットはあなたの最高の相棒になります。
ブランドのロゴマークだけでなく、そのラケットが語りかけてくる「コンセプト」に耳を傾けてみてください。
タイプ別・あなたにおすすめの「生存戦略スペック」
これまでの知識を総動員して、あなたの悩みやプレースタイルに合わせた具体的なスペックの方向性を提案します。自分に近いタイプを探してみてください。
ケースA:「速いボールに振り遅れてしまう」「ボレーが苦手」
現代テニスのスピード感に、ラケットの操作性が追いついていない可能性があります。「準備の時間」を稼ぐためのスペックを選びましょう。
戦略: 操作性(取り回し)を最優先にする。
推奨スペック:
重さ: 285g〜300g(無理のない範囲で)
スイングウェイト: 軽め(ここが重要!)。ショップで振り比べて、スッとヘッドが走るものを選ぶ。
バランス: 310mm〜315mm(トップライト気味)。手元に重心があると軽く感じます。
フレーム: 振り遅れても飛んでくれるよう、少し厚めのアシストがあるもの。
ケースB:「思い切り打つとアウトする」「もっとスピンをかけたい」
パワーはあるけれど、制御できていないタイプです。「飛びすぎる恐怖」を「回転」で解決しましょう。
戦略: スピン性能を最大化し、ボールを急降下させる。
推奨スペック:
フェイス面積: 100平方インチ(スイートスポットを確保)。
ストリングパターン: 16×19(必須)。スナップバックを使って回転をかけます。
フレーム形状: 空気抵抗を減らす「エアロ形状」などのコンセプトを持つモデル。
スイングウェイト: ストロークで遠心力を使いたいので、標準〜やや重めでもOK。
ケースC:「肘や手首が痛くなりやすい」「柔らかい打感が好き」
衝撃吸収と、ボールを運ぶ感覚を重視します。身体を守ることも重要な生存戦略です。
戦略: 「しなり」を活用して衝撃を逃がす。
推奨スペック:
RA値(硬さ): 低め(65以下)。柔らかいフレームを選びましょう。
フレーム厚: 厚すぎないもの(中厚〜薄め)。厚ラケは衝撃が強い傾向があります。
重さ: 軽すぎないこと。軽すぎるラケットは相手のボールの衝撃を腕で受け止めることになるため、ある程度の重さ(質量)で衝撃を吸収させます。
(肘や手首が痛む場合様々な要因がありますので一例として参考にして下さい。)
忘れちゃいけない!身体との唯一の接点「グリップサイズ」
スペック選びで最後に確認してほしいのが、グリップ(持ち手)の太さです。 「なんとなく」で選んでいる人が多いですが、実はここが合っていないと、テニス肘の原因になったり、せっかくのラケットの性能が発揮できなかったりします。
- サイズ 2(G2): 日本の男女の標準
- サイズ 1(G1): ジュニア、手が小さめの方向け。
- サイズ 3(G3): 手の大きな男性向け。
現代テニス的・グリップ選びのコツ
昔は「握った時に指1本分の隙間」と言われていましたが、現代テニスでは「手首を柔らかく使ってスピンをかける」ことが重要です。 そのため、もし迷ったら「少し細め」を選ぶのも一つの手です。太すぎるグリップは手首の自由度を奪い、スナップバックを阻害してしまいます。 逆に、ボレー中心で面を安定させたい場合は、太めの方がグラつきにくくなります。
まとめ:ラケット選びは「自分を知る」旅
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
ラケット選びの極意、それは「自分のテニススタイル(悩みや目標)」と「ラケットのコンセプト(解決策)」をマッチングさせることに尽きます。
「プロ選手が使っているから」 「人気ランキング1位だから」 「デザインがかっこいいから」
もちろん、それらも大切な要素です。気分の上がる道具を使うことは、継続するための大きなモチベーションになりますから。 でも、そこに少しだけ「このラケットは、現代の速いテニスにおいて、自分をどう助けてくれるのか?」という視点を加えてみてください。
- 振り遅れる私を、軽いスイングウェイトが助けてくれる。
- アウトしてしまう私の強打を、粗いストリングパターンがコートにねじ込んでくれる。
- 非力な私を、厚いフレームが助けてくれる。
そうやって選んだラケットは、単なる道具ではなく、コート上であなたを助けてくれる最高の「相棒」になるはずです。
最後に:必ず「試打」をしよう!
記事で知識を得たら、最後はあなたの「手のひら」がセンサーです。 多くのショップやテニススクールでは、試打ラケット(デモラケット)を借りることができます。 黄金スペックを基準に、スイングウェイトの違うもの、コンセプトの違うものを実際に打ち比べてみてください。
「あ、これなら振り遅れない!」 「この感触、好きかも!」
その直感こそが、正解です。 あなたが運命の1本に出会い、次の週末のテニスが待ち遠しくてたまらなくなることを、心から願っています。 さあ、新しい相棒を探しにいきましょう!
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