今日は、技術的な「打ち方」の話から少し視点を広げて、「テニスの学び方」について、かなり深いところまで掘り下げてみたいと思います。
皆さんは、こんな経験ありませんか?
YouTubeで世界的に有名なコーチの動画を見た。 「なるほど!プロはこう打っているのか!」と感動した。 その通りにコートでやってみた。 ……全然打てない。むしろ前よりおかしくなった。
「やっぱり自分には才能がないのかな…」 「練習量が足りないからできないのかな…」
もしそう落ち込んでいる方がいたら、断言させてください。 それは、あなたの才能がないからではありません。 そのアドバイスが、「今のあなたに向けられたものではなかった」というだけなのです。
今回は、テニスにおける「大人と子どもの決定的な違い」、そして私たちが陥りやすい「情報の罠」について、じっくりとお話しします。 少し長くなりますが、読み終わる頃には、今まで感じていた「違和感」の正体がハッキリと見え、明日からの練習への向き合い方がガラリと変わるはずです。
目次
テニスの物理法則は「老若男女」すべて同じ
まず大前提のお話から始めましょう。
テニスというスポーツは、物理現象の中で行われます。 ボールの重さは約58グラム。コートの広さは決まっています。重力は誰に対しても平等に働き、空気抵抗もすべての人に同じように作用します。
ロジャー・フェデラーが打とうが、錦織圭選手が打とうが、そして私たちが打とうが、ボールが飛ぶ原理(物理法則)は1ミリも変わりません。 ラケットがどう当たればスピンがかかるのか、どの角度で飛び出せばコートに入るのか。 この「正解」は、子どもであろうと大人であろうと、物理的にはたった一つです。
「じゃあ、指導方法も子どもと大人で同じでいいじゃないか」
そう思いますよね? ところが、ここがテニスの(というよりスポーツ全般の)面白いところであり、難しいところです。
物理現象としての正解は一つなのに、それを人間に伝えようとした瞬間、「指導方法は真逆」と言っていいほど変わってしまうのです。 いや、あえて強い言葉を使うなら、「変えなければならない」のです。
なぜなら、その情報を受け取る「受信機(人間の脳と感覚)」のOSが、子どもと大人では全く異なるからです。
感性の子ども、理屈の大人
この違いを大雑把に、でも核心を突いて表現するとこうなります。
- 子ども(ジュニア):感覚が鋭く、論理力が未発達
- 大人(一般プレーヤー):感覚が鈍くなり、論理力が発達している
この違いが、指導の現場ではどう出るでしょうか。
子どもへの指導:「イメージ」で伝える
子どもたちに「ラケットヘッドを◯度の角度でダウンさせて、向心力を利用して…」なんて説明しても、ポカンとするだけです。 彼らに必要なのは、理屈ではなく「感覚」です。
例えば、トップスピンを教える時。 「ボールをこうやって手で転がしてみて? そう、その感じでラケットで触ってみよう!」 「ボールの背中を撫でてあげる感じだよ!」
こう伝えると、子どもたちは「なんとなくのイメージ」で身体を動かします。 そして、彼らの素晴らしいところは、その「なんとなく」を再現する身体のセンサーが敏感なこと。数回やるうちに、「あ、この感じか!」と身体で正解を見つけ出します。 フォームの形そのものよりも、「どういうイメージを持てばいいか」を伝えるだけで、彼らは勝手に最適解へと辿り着きます。
大人への指導:「論理」で伝える
一方、私たち大人はどうでしょうか。 残念ながら、大人になると身体の感覚センサーは鈍くなります。「ボールを転がすように」と言われても、「転がすって…擦るの?押すの?どれくらい?」と迷いが生じます。転がしてるつもりが抑え込む動作になっているなんてこともあります。 感覚で正解を探り当てる能力が、加齢とともに低下しているからです。
その代わり、大人には「論理力(理解力)」という最強の武器があります。 「なぜそうなるのか」を理解する力です。
「ラケットヘッドを下げてからボールの下に入れます。そこから上に振り抜くことで、縦回転がかかります。そのためには、テイクバックで肘をこの位置にセットする必要があります。なぜなら、ここからの方が加速距離が稼げるからです」
このように、「どうなったらラケットが加速するのか」「そのためにどういう準備が必要なのか」を論理的に説明されると、大人は納得します。 納得すると、脳から身体へ明確な指令が出せるようになります。
「心の許可」が下りないと、人は動けない
ここで、非常に重要なキーワードを出します。 それは、「心の許可」です。
人間は、新しい動きや技術を取り入れる時、無意識のうちに自分自身に対して「これならできそうだ」「やってみよう」というGOサインを出しています。これが「心の許可」です。 この許可が下りないと、いくら正しいアドバイスを受けても、身体は恐怖心や疑心暗鬼で固まり、いつもの慣れた動き(悪い癖)に戻ってしまいます。
この「心の許可」の下り方が、子どもと大人で全く違うのです。
子ども:「楽しそう!」「なんかできそうな気がする!」という「予感(感覚)」で許可が下りる。
大人:「なるほど、理屈が通っている」「その仕組みなら自分にもできるはずだ」という「納得(理論)」で許可を無理やり下ろす。
大人は、感覚が弱いからこそ、「できる予感」の入り口を「理論」に頼るしかないのです。 「感覚で掴め!」というのは、大人に対して「地図を持たずに知らないジャングルを歩け」と言うのと同じくらい酷なことなのです。
だからこそ、私たち大人の指導者は、感覚的な言葉を排除し、徹底的に言語化し、物理的な根拠を示して、「ほら、この通りに動けば物理的に入るんですよ」と、大人の理性を安心させてあげる必要があります。
世界的に有名なコーチの「罠」
さて、ここからが今日の本題であり、少しシビアな話になります。 皆さんが熱心に勉強している「テニス情報」についてです。
テニス雑誌やYouTube、SNSを開けば、世界的に有名なコーチのアドバイスが溢れています。 「世界No.1を育てたメソッド!」「グランドスラム優勝者を指導!」 素晴らしい肩書きです。彼らの言っていることは、間違いなく「正解」です。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。 「その有名なコーチは、誰を教えて有名になったのでしょうか?」
答えは単純。 「世界的に有名な選手(トッププロ)」を育てたから、有名になったのです。
では、その「有名な選手」とは、どういう人たちでしょうか。
- 生まれつき運動神経の塊のようなセンスを持っている。
- 幼少期からテニス漬けで、圧倒的な練習量(時間)を確保している。
- 人生のすべてをテニスに捧げる覚悟と体力がある。
彼らは、いわば「テニスの天才」であり「努力の天才」です。 そして、有名なコーチのアドバイスは、「そういう天才たちが、さらに上のレベル(世界一)に行くためのアドバイス」であることがほとんどです。
プロへの正解は、大人への劇薬
具体的な例を出しましょう。
ある有名なコーチがこう言ったとします。 「ストロークにおいて、ネットミスは重罪だ。だからネットの白帯の3倍高いところを通せ。そして、そこに向かって全力で振り抜け!」
これは、選手育成においては100点満点のアドバイスです。 ネットの高いところを通せば、物理的にアウトする確率は高くなります。しかし、それをねじ込むために「全力で振って強烈なスピンをかける」のです。
練習時間が無尽蔵にあり、身体能力も高いジュニアやプロなら、このアドバイスを受けて毎日何時間も打ち込みます。最初はアウトばかりでしょう。でも、数千球、数万球と打つうちに、その高さからコートにねじ込むためのスピン量、スイングスピード、インパクトの感覚を身体が学習します。 結果、ナダルのような「高弾道でベースライン際で急激に落ちる、相手にとって脅威となるボール」が完成します。
では、これを「週1回レッスン、週末に少しプレーする忙しい大人」が真に受けたらどうなるでしょうか?
「よし、ネットの3倍上だ!全力で振るぞ!」
結果は火を見るより明らかです。 ただのホームラン(大アウト)の量産です。
大人には、その高い軌道をねじ込むために必要な「超高速スイング」を維持する筋力もなければ、その感覚を養うための膨大な練習時間もありません。 理屈では正しい。プロにとっては正解。 でも、限られた時間と体力でテニスを楽しむ一般の大人にとっては、「再現不可能な理想論」になってしまうのです。
「有名な人」ほど、伝え方の根本が違う
ここに、私たちアマチュアプレーヤーが陥る最大のジレンマがあります。
私たちが「テニス 上達法」などで情報を探そうとすると、どうしても検索上位に来るのは、実績のある「有名なコーチ」の言葉です。 しかし、先ほど述べたように、彼らの実績の多くは「トップ選手」を育てたことによるものです。彼らの指導ノウハウは、「才能ある若者を、時間をかけて最強にする」ことに特化しています。
一方、私たちが求めているのは何でしょうか? 「週1回の練習でも、確実に上達したい」 「怪我なく、長くテニスを楽しみたい」 「衰えてきた体力を、技術(理屈)でカバーしたい」
つまり、「忙しい大人のための指導法」です。
これらは、目的が全く違います。 目的が違えば、手段も違って当たり前です。
プロ向けの指導は、F1マシンを作るようなものです。速く走るためには快適性も燃費も犠牲にしますし、運転するには高度な技術が必要です。 一般向けの指導は、自家用車や高級セダンを選ぶようなものです。快適で、安全で、誰でも運転しやすく、それでいて目的地に確実に到着できることが重要です。
有名なコーチのアドバイスが「間違っている」のではありません。 「前提条件(ターゲット)」が違うという事実を知っておくことが重要なのです。
自分に合った「翻訳」を見つけよう
ここまで読んで、「じゃあ、プロの動画は見ない方がいいの?」と思われたかもしれません。 決してそうではありません。プロの動きは美しく、理想的なイメージ(ゴール)として頭に入れておくことはとても大切です。
重要なのは、その情報を「今の自分」に合わせて翻訳(フィルタリング)できるかどうかです。
「プロはあんなに激しく手首を使っているけど、あれは毎日ケアできる身体があるからだ。週一の自分が真似したら手首を壊すな。じゃあ、手首は固定して、動かしてると固定してるの矛盾の隙間を解き明かそう」
「プロはネットの高いところを通せと言うけれど、自分にはあのスピン量は無理だ。もう少しネットギリギリを通して、スピードを抑えてコントロール重視で行こう」
このように、「自分の持ち時間」「自分の体力」「自分の目的」という土台を念頭に置いた上で、情報を取り入れる必要があります。
私たちワールドテニススクールが、ブログやレッスンで「論理」や「理屈」をしつこいくらいにお伝えするのは、それが「大人が最短で上達するための唯一の近道」だと知っているからです。
感覚に頼る時間は、私たちにはありません。 天才のようなセンスがなくても、何万回も練習しなくても、「物理的な理屈」さえ理解してしまえば、昨日の自分より上手くなることは誰にでも可能です。
大人は、頭を使って上手くなりましょう。 「なぜそうなるのか」が分かれば、あなたの心に「これならできる!」という許可が下ります。 その許可さえ下りれば、あなたのテニスはいくつになっても進化し続けます。
もし、「今の自分の打ち方が理屈に合っているか分からない」「たくさんの情報に振り回されて迷子になっている」という方がいれば、ぜひ一度スクールに足を運んでみてください。 あなたの「なぜ?」を解消し、あなただけの「できる予感」を一緒に作っていきましょう。
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