こんにちは! 前回の記事では、固く閉まった「瓶のフタ開け」の動作をヒントに、テニスにおける究極のテーマ「脱力と固定」についてお話ししました。
しかし、実際にコートに立ってみると、新たな壁にぶつかる方も多いのではないでしょうか。 「素振りでは完璧なのに、いざ生きたボールが飛んでくると腕がガチガチになってしまう」 「手首を『固定』しようとフォームを意識すればするほど、動きがロボットのようにカクカクしてしまう」
なぜ、知識としては理解したはずの「脱力と固定」が、実際のラリーや試合で体現できないのか? その原因は、あなたの運動神経が悪いからではありません。コート上での「テニスというスポーツの捉え方」と「意識の向け方」が、本質から少しづれてるだけの可能性が高いです。
本日は、前回の理論をさらに一歩深め、スポーツ科学の視点から「なぜフォームへの執着が上達を妨げるのか」を徹底解剖していきます。あなたのテニス観を根底から覆すかもしれませんので、ぜひ最後までじっくりとお付き合いください!
目次
「一次操作」と「二次操作」の違い。テニスは「道具」を使うスポーツである
まず、スポーツの動作を考える上で、非常に重要な2つの概念を理解していただく必要があります。それは「一次操作」と「二次操作」です。
一次操作(身体の操作): 自分自身の身体をどう動かすか、という操作です。例えば、体操競技やフィギュアスケート、陸上の短距離走などがこれに当たります。「膝を高く上げる」「指先までまっすぐ伸ばす」といった、身体そのものの美しい動きや効率的な動きがパフォーマンスに直結します。
二次操作(道具を介した操作): 道具を使って、対象物(ボールなど)を操る操作です。テニス、野球、ゴルフなどがこれに該当します。
身体の操作を意識しすぎると、肝心の「ラケットによるボールの操作(二次操作)」が完全に疎かになってしまいます。人間の脳は、一度にたくさんのことを処理できません。「肘の角度」や「腰の回転」に脳のメモリ(リソース)を使ってしまうと、ラケットの面がどうボールに当たっているかを感じ取る余裕がなくなってしまうのです。
分かりやすい例が「お箸の使い方」です。お箸で小さな豆を掴むとき、「人差し指の第一関節を30度曲げて…」などと自分の指の動き(一次操作)を意識する人はいませんよね。ただ純粋に「お箸の先で豆をどう挟むか(二次操作)」だけに集中しているはずです。
テニスは、ラケットという道具を使ってボールを打ち返す「二次操作」のスポーツです。 テニスが二次操作のスポーツであることを前提にするなら、自分の身体の使い方(フォーム)を第一に考えるのではなく、「ラケットという道具に、いかに物理的な仕事(エネルギー転移)を効率よくさせるか」にのみ集中すべきなのです。
テニスは「オープンスキル」であり「クローズドスキル」ではない
二次操作に加えて、もう一つ絶対に知っておくべきスポーツ科学の分類があります。それが「オープンスキル」と「クローズドスキル」です。ここを勘違いしていると、いくら練習しても試合で勝てないという悲劇が起こります。
クローズドスキル(閉鎖的スキル): 環境が安定しており、変化が起きない中で実行するスキルです。例えば、体操競技、ダーツ、ボウリング、バスケットボールのフリースローなどが該当します。状況が変わらないため、「あらかじめ決めた理想のフォーム(動き)を、いかに正確に再現できるか」が問われます。
オープンスキル(開放的スキル): 環境が常に変化し、予測不能な中で実行するスキルです。テニス、サッカー、バスケットボールの試合中などがこれに当たります。相手の立ち位置、飛んでくるボールのスピード、回転量、風向きなど、「毎回絶対に違う状況」に合わせて、瞬時に動きを適応させる能力が問われます。
さて、ここまでの話を総合してみましょう。 テニスは「二次操作(道具を使う)」であり、かつ「オープンスキル(状況が常に変化する)」のスポーツです。
それなのに、テニス雑誌やレッスン動画を見て「テイクバックでの肘の高さはこれくらいで…」「膝をここまで曲げて…」と、「一次操作(自分の身体の動き)」と「クローズドスキル(毎回同じフォームの再現)」に固執してしまっていませんか?
常に変化する生きたボールに対して、毎回同じガチガチのフォームで対応しようとすること自体が、原理原則から外れているのです。「頭では分かっているのに、ボールが来ると体がバラバラになる」のは当たり前。だって、飛んでくるボールは毎回違うのですから。
今のフォームは単なる「アプリ」。最終目標は「触り方」の習得
では、フォーム(形)には何の意味もないのでしょうか? そんなことはありませんが、捉え方を変える必要があります。
今のフォームは、「今の自分というOS(基本システム)」にインストールされている「ひとつのアプリ」に過ぎません。
スマホのアプリが使いにくければアップデートしたり、状況に合わせて別のアプリに入れ替えたりするように、フォームという「形」そのものは絶対的なものではなく、いつでもアンインストールして書き換えられるものです。大切なのは、そのアプリを動かしている「OS(基本システム)」を正常に機能させることです。
私たちが目指すべき本当のゴールはどこでしょうか? それは、腕を動かす動作(一次操作のフォーム)を頑張るのではなく、ラケットを通じたボールの「触り方」で「強打」「コース」「回転」をコントロールできるようになるのが最終目標です。
「固定」と「感覚」を研ぎ澄ます4つの調整力(コーディネーション能力)
状況が毎回変わるオープンスキルの中で、身体の動きを意識せずに、インパクトの一瞬の強力な「固定」と、極上の「打球感」を生み出すにはどうすればいいのか?
そこで鍵となるのが、人間の脳と身体をつなぐ「コーディネーション能力(調整力)」です。 フォアハンドストロークにおいて、「固定」のタイミングを正確に合わせ、手先の「感覚(打球感)」を研ぎ澄ますためには、以下の4つの能力をフル稼働させる必要があります。
1. 「固定」のタイミングをドンピシャで合わせるための能力
オープンスキルの環境下において、動いているボールに対して一瞬の「壁」を作るための能力です。
① 定位能力(距離感・空間認知) 動いているボールと、自分の位置関係を正確に把握する能力です。飛んでくるボールの軌道、スピード、高さを空間的に測り、「どこでボールを捉えるべきか」というインパクトのポイントを瞬時に割り出すために不可欠です。
② リズム能力(タイミングの同調) 動くタイミングやテンポを上手につかむ能力です。相手の打球リズムやボールのバウンドに合わせてスイングを開始し、ラケットとボールが衝突するまさにその瞬間に「一瞬だけ力を入れて固定する」タイミングをドンピシャで合わせる役割を果たします。
2. 固定時の「感覚(打球感)」を最高ランクに引き上げる能力
ボールの衝撃に負けない固定を作りつつ、それを単なる「力み」ではなく、ボールを自在に操る良質な「打球感」へと昇華させるための能力です。
③ 識別能力(精密な操作と触覚) 手足の動きと道具(ラケット)を視覚と連携させて、正確かつ細かく操る能力です。これはまさに「ボールの触り方」や「インパクトの感触(打球感)」をコントロールする能力そのものです。この能力が高いと、ガットがボールに食い込む感覚や衝撃の度合いを繊細に感じ取り、手首や前腕の「固定力」を適切な強度と角度で瞬時に微調整できるようになります。
④ 連結能力(スムーズな運動連鎖) 筋肉や関節の動きをスムーズに、タイミングよく同調させて身体全体を動かす能力です。スイング初動の「ラケットダウン(落下)」から、グリップ先行による「切り返し」、そしてインパクトでの「固定」へと至る一連の動作を滑らかにつなぎます。これが機能することで、全身のエネルギーがインパクトの一点に無理なく集約され、「楽に重いボールが飛ぶ」という手応えを得られます。
コートで実践!脳のノイズを消し去る「究極の意識」
これらの能力をフル稼働させ、固定の感覚を飛躍的に向上させるためのコツは、とてもシンプルです。 それは、頭の中で「正しいフォーム」を意識しすぎるのをやめることです。
「手首の角度」や「肘の位置」に意識を向けると、脳の処理にノイズ(雑音)が入り、せっかくの調整力(コーディネーション能力)がフリーズして、動きがカクカクしてしまいます。
代わりに、次回の練習から以下のことだけに100%集中してみてください。
「インパクトの瞬間の振動や音」や「ボールをどう弾き返すかという手先の触り方(識別能力)」に全神経を集中させる。
これらに意識を向けた瞬間、脳は自動的に不要な筋肉の緊張を解き放ってくれます。そして、ボールとの距離を無意識に測り(定位能力)、最適なタイミングで(リズム能力)、身体をスムーズに連動させ(連結能力)、最も効率よくボールに力を伝える「固定」を行ってくれるのです。
意識するのは「結果(音・打球感)」と「道具(ラケットへの仕事)」。 身体の動きは、その結果を得るためにOSが勝手に選んでくれる「オマケ」だと思ってください。
おわりに:打ち方の詳細は動画で!
テニスの上達を阻んでいたのは、筋力不足でも運動神経のなさでもなく、「毎回同じフォームで打とうとする(クローズドスキル的思考)」と、「自分の身体の動きばかり気にする(一次操作的思考)」という二つの罠でした。
腕の動きを頑張るのではなく、ラケットを通じてボールと対話する「触り方」に意識をシフトしましょう。その時、あなたの身体に眠っていたコーディネーション能力が完全に解放されるはずです。
なお、今回の記事では「テニスというスポーツの捉え方」と「脳と感覚の使い方」という本質的な部分に特化してお話ししました。各ショットの具体的なラケットの軌道や、細かい打ち方の詳細につきましては、文章でお伝えするよりも実際の動きを見ていただくのが一番ですので、ぜひ動画で確認してくださいね!というスタンスで締めくくらせていただきます。
今のあなたのテニスのOSに、最適な「アプリ(フォーム)」をインストールするお手伝いができれば幸いです!
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