テニスを愛する社会人プレーヤーの皆さん、日々の練習は楽しんでいらっしゃいますか。
週末の試合やサークルの練習会で、「相手のスライスが低く滑ってきて、どうしても持ち上げられずにネットしてしまう」、あるいは「自分の打ったスライスがふわっと浮いてしまい、相手に絶好のチャンスボールを与えて叩かれてしまう」といった悔しい経験をしたことはないでしょうか。
スライスというショットに対して、なんとなく「守りのためのショット」や「つなぎのショット」という地味なイメージを持っている方も多いかもしれません。
しかし、実はテニスにおけるスライスは、単なる守備的な技術にとどまらない深い可能性を秘めています。
相手のリズムを崩してミスを誘ったり、体力を温存しながら巧みにゲーム展開を作ったりと、経験と技術で勝負する「大人のテニス」において、これほど強力な武器になるショットはありません。
この記事では、スライスの基本的な概念から、物理的なメカニズムに基づいた「力を入れずに楽にボールを飛ばす理論」、そして試合で勝利をつかむための具体的な戦術までを、一つひとつ丁寧に解説していきます。
体力や筋力だけに頼るのではなく、理屈と身体の使い方を理解することで、あなたのテニスをワンランク上のステージへと進化させていきましょう。
目次
スライスとは何か?なぜ大人こそ習得すべきなのか
まずはじめに、スライスとは具体的にどのようなショットなのか、その本質を改めて確認しておきましょう。
スライスとは、ボールに対してバックスピン、つまり進行方向とは逆向きの下回転をかけるショットのことです。
ラケットの面を少し上向きにしてボールの下側を捉えるように打つことで、バウンド後に低く滑っていく独特な軌道を生み出すのが最大の特徴です。
このスライスを習得することには、特に大人のプレーヤーにとって計り知れないメリットがあります。第一に挙げられるのは、相手のリズムを根本から崩せるという点です。
トップスピンのボールが高く弾むのに対し、スライスはバウンド後に低く滑るように伸びてきます。
これにより、相手は膝を深く曲げてボールの下にラケットを入れ、持ち上げるような動作を強いられることになります。
これは相手にとって体力的にも負担がかかりますし、強打を封じ込めてミスを誘うのにも最適な手段となります。
第二のメリットは、省エネで威力を出せるという点です。
ここが、パワーに頼りたくない我々にとって一番のポイントと言えるでしょう。
スライスは、筋力で無理やり飛ばすショットではありません。
後ほど詳しく解説する正しい身体の使い方、特に「切り返し」の動作さえ習得してしまえば、大きなバックスイングや激しいスイングスピードを必要とせず、リラックスした状態のまま鋭いボールを打つことが可能になります。
そして第三のメリットとして、時間を稼げるという点が挙げられます。
ラリー中に相手に攻め込まれて走らされたとき、滞空時間の長いスライスを深く返球することで、自分がコートのセンターに戻り、体勢を立て直すための貴重な時間を作ることができます。
このように、スライスは攻守の要となる、まさに「魔法の杖」のようなショットなのです。
【技術論】ボールを「楽に飛ばす」物理的な原理
それでは、ここからは具体的な技術論に入っていきましょう。
多くの人が悩む「スライスが飛ばない」「当たりが薄い」という問題を解決するために、「力を入れずに飛ばす理論」について深掘りします。
この理屈がわかると、スライスに対する苦手意識が一気になくなるはずです。
「押す」のではなく「切り返す」動きで飛ばす
皆さんはスライスを打つとき、ボールを飛ばそうとして、ラケットでボールを一生懸命、打ちたい方向へ「押して」しまってはいないでしょうか。
実は、これがスライスが飛ばない、あるいは浮いてしまう最大の原因の一つです。
スライスで楽に威力を出すために必要なのは、ラケットを前に押す動作ではなく、ラケットの「切り返し」という物理的な動作を利用することなのです。
スイングを開始する際、まず手(拳)が先行して前に動き出し、ラケットヘッドはその場に留まろうとして、手の動きよりも遅れて出てくる状態を作ります。
そして、この「遅れたラケット」が、先行した手と同じ位置まで戻ろうとして急激に加速する瞬間、そこにボールを捉えるのです。
この「遅れ」から「戻り」への急激な入れ替わり動作によって、自分から力を入れて振らなくても、ラケットヘッドが走ってボールを強く弾き出してくれるようになります。
驚きのコツ:「背中側に引く」意識を持つ
では、どうすればその「切り返し」による加速を生み出せるのでしょうか。
そのための具体的なコツは、なんとラケットを前ではなく「背中側(後ろ)」に引く意識で振ることなのです。
これは直感とは逆の動きかもしれませんが、非常に重要なポイントです。
もし、ボールを飛ばしたい方向、つまり前方へラケットを出そうとしてしまうと、せっかく作った「ラケットの遅れ」が解消されず、手とラケットが一緒に動くだけの「押し出すスイング」になってしまいます。
これではラケットヘッドの加速が得られず、ボールの下を撫でるだけになり、打球が浮きやすくなってしまいます。
そうではなく、バックボレーを打つときのように、「インパクトの直前から一気に背中側へ引く」つもりで振ってみてください。
もちろん、身体が邪魔をするので物理的にラケットが背中まで行くことはありませんが、その意識を持って操作することで、自然と手が前に出て、ラケットヘッドが遅れ、その後に鋭い切り返しが発生してヘッドが前に走るようになります。
この「背中側に引く」動作のスピードが速ければ速いほど、コンパクトな振り幅でも「パンッ」と弾くような、速いスライスが打てるようになります。
「背中に引く」動作を速くするのは、「引く動作を止める」です。
なので「背中に引く」動作を意図的に速く動かす必要もありません。
強く止める程「速く」なります。
逆に、ゆっくりとしたボールを運びたいときは、止めの動作を緩めるか、引く動作を少なくして押す動作の要素を多くします。
このように、動かす力の強弱ではなく、止めの強弱でボールをコントロールできるようになるのが、スライス上達の鍵となります。
【技術論】コースの打ち分け:順クロスと逆クロス
スライスを打てるようになっても、「狙ったコースに打てない」「いつも同じコースになってしまい読まれる」という悩みを持つ方も多いでしょう。
コースの打ち分けについても、手首だけでラケット面の向きを変えようとするのではなく、身体の使い方とラケットの「抜け感」でコントロールするのが上級者への近道です。
まず、右利きの人が左方向へ打つ「逆クロス」への打ち方について説明します。
逆クロスへ打つときは、ボールの内側を捉えてラケットを「逃がす」感覚を強く持って振ってみてください。
ラケットを引く動作によってボールの打ち側を捉えやすくなり、自然と打球方向が左側へ向かうようになります。
無理に手首を返したり打点を極端に変えたりする必要はありません。
一方、→方向へ打つ「順クロス」へ打ちたい場合はどうすれば良いでしょうか。
このときのポイントは、テイクバックの段階で親指を内側に入れるような「ねじり」を作っておくことです。
この「ねじり」は「背屈」を作ります。
そして、そのねじりをキープしたまま打つことで、しっかりとボールの外側を捉えて順クロス方向へ運べるようになります。
このように、打つ瞬間に無理やりコースを変えるのではなく、ラケットの「抜け感」を使うのか、それとも事前の「ねじり」で逃げないようにするのかを使い分けることで、相手にフォームからコースを読まれにくい、質の高い打ち分けが可能になります。
場面別:スライスの種類と使い分け
一口にスライスと言っても、試合中には状況に応じて使い分ける必要があります。
大きく分けて「守り」と「攻め」の2つの顔を持つスライスを、場面ごとにどのように活用すべきか見ていきましょう。
まずは「守りのスライス(ディフェンス)」です。
これは相手に攻め込まれ、余裕がないときの生命線となるショットです。
目的は、自分が崩された体勢を立て直す時間を稼ぐこと、そして相手をベースライン後方に釘付けにすることです。
この場合のスイングは、「引き」「止め」重視のコンパクト、そして「止め」の強さで深さをコントロール。
押さなくて済むので凌ぐのには最適です。
鋭さに重きを置かないのでスピードはゆっくりで大丈夫です。
相手に「もう一回打たせる」という粘り強さを持って返球しましょう。
次に「攻めのスライス(オフェンス)」です。これは自分から展開を作って仕掛けていくときのスライスで、アプローチショットなどがこれに当たります。
目的は、相手の体勢を崩して甘い返球を引き出し、ネットに出るきっかけを作ることです。
守りのスライスとは異なり、低く鋭い弾道で、ボールのスピードも意識して打ち込みます。
打った後にその勢いのままネットへ詰め、相手が苦し紛れに返してきたボールをボレーで確実に仕留めるパターンは、スライスの醍醐味とも言えるでしょう。
さらに応用編として、「ドロップショット」があります。
ドロップショットは、スライスの技術を応用して強いバックスピンをかけ、ネット際でボールを急激に止める技術です。
相手の意表を突いて前に走らせることで、体力を削ると同時に精神的なダメージも与えることができます。
よくあるミスと改善のポイント
理屈はわかったけれど、実際にコートで打ってみるとなかなかうまくいかない、という方のために、よくあるミスの原因とその対策を整理しておきましょう。
最も多い悩みが「ボールがふわっと浮いてしまう」ことです。
これは相手にとって絶好のチャンスボールになってしまいます。
原因としては、ラケット面が上を向きすぎているか、先ほど説明した「切り返し」ができずに押してしまい、下からすくい上げるようなスイングになっている可能性が高いです。
改善策としては、ラケット面を少し地面と垂直に近づけるイメージを持ち、ボールを「切る」のではなく「厚く当てて運ぶ」感覚を持つことです。
そして何より、インパクトの瞬間に背中側への「引き」と「止め」を意識して、ヘッドを走らせることを忘れないでください。
スライス上達のための練習法
最後に、明日からの練習に取り入れられる具体的な練習方法をご紹介します。
初心者や、まだスライスの感覚が掴めていないという方は、ネットに近い距離でのショートラリーから始めてみましょう。
コンチネンタルグリップでラケットを持ち、ボールを「運ぶ」のではなく、小さく鋭く「切り返す」打球感を確認します。
このとき、山なりのボールでも構いませんので、ボールにきれいな逆回転がかかっているかをしっかりと目で見てチェックしてください。
ある程度打てるようになってきた中級者以上の方は、コントロールとバリエーションを増やす練習が効果的です。
球出し練習やラリーの中で、意識的に「深く滑って伸びるスライス」と「浅く止まるようなスライス」を交互に打ち分ける練習をしてみましょう。
また、コートにコーンなどのターゲットを置いて、狙ったコースへ正確に打つ精度を高める練習も、試合での自信につながります。
まとめ
テニスのスライスは、決して体力や若さに依存する技術ではありません。
むしろ、「物理的な理屈」と「正しい身体の使い方」を理解し、ボールを自在に操る楽しさを知ることができる、非常に奥深い技術です。
今回ご紹介した「ラケットを背中側に引くことで生まれる切り返し」の感覚さえ掴めれば、驚くほど楽に、そしてキレのあるボールが打てるようになるはずです。
力む必要がないので、長時間プレーしても疲れにくくなり、テニスがもっと楽しくなることでしょう。
ぜひ、次回の練習からこの理論を意識して、大人の余裕を感じさせるスマートなプレーを目指してみてください。
あなたのテニスライフがより豊かになることを応援しています。
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