これまでの記事で、私たちはテニスの上達に必要なステップを順を追って解説してきました。
「中級から上級への道」:中級者と上級者の決定的な違いである「再現性」と「ミスの質」について。
「球出し練習の落とし穴と正解」:ただ気持ちよく打つのではなく、実戦(ライブボール)を想定した「確率」を上げる練習法について。
そして第3弾となる今回のテーマは、テニスプレーヤーなら誰もが一度は憧れ、そして悩まされる言葉。 「センス」についてです。
「あの人はセンスがあるから上達が早い」 「自分には運動神経がないから無理だ」
もしあなたが今、このような壁にぶつかっているとしたら、それはあなたの努力不足でも、才能の欠如でもありません。 ただ、「脳の使い方のスイッチ」がほんの少し違っていただけです。センスは後天的に伸ばすことができるのです。
今回は、最新の脳科学(シナプス前抑制)の知見をベースに、多くの人が誤解している「テニスのセンス」の正体を暴き、誰でも後天的に「天才の感覚」を手に入れるための具体的なトレーニング方法を完全解説します。
目次
テニスにおける「センス」とは何か?
そもそも、「テニスのセンスが良い」とはどういう状態を指すのでしょうか? 漠然としていますが、分解すると以下のような能力の集合体であることが分かります。
テニスIQに関わるセンス
論理力:プレーを組み立てる力
判断力:状況を瞬時に見極める力
発想力:相手の意表を突くアイデア
決断力:迷わず実行する力
精神力・忍耐力:プレッシャーに打ち勝つ力
継続力:地道な努力を続ける力
身体能力(運動神経)に関わるセンス
調整力:運動中の姿勢を安定させ、タイミングよく体を動かす能力
身体力:体を思い通りに操る能力
体力:プレーを維持するスタミナ
瞬発力:一瞬でトップスピードに乗る力
今回は、この中でも特に「運動神経が良い」と言われる人の正体である、「調整力」と「身体力」にフォーカスします。
実は、この2つの能力が高い人は、脳内での「情報の処理方法」が普通の人と全く違うのです。
センスが良い人の脳内で起きていること ~シナプス前抑制~
「調整力が高い」「身体力が高い」というと、筋肉が特別発達しているように思えるかもしれません。しかし、真実は逆です。 センスが良い人の体は、「無駄な情報(ノイズ)をカットするのが上手い」のです。
これを専門用語で「シナプス前抑制(Presynaptic Inhibition)」と呼びます。
脳のノイズキャンセリング機能
テニスをしている時、私たちの体には「風の音」「ウェアの擦れる感覚」「グリップの感触」「足裏の感覚」など、膨大な情報が入ってきます。 初心者の脳は、この全ての情報を真面目に処理しようとしてパンクし、結果として動きがギクシャクしてしまいます(=身体力が低い状態)。
一方で、センスが良い人(上級者)の脳は、「情報の門番(ゲートキーパー)」が優秀です。 運動に必要な「インパクトの打球感」や「ボールとの距離感」といった重要な情報だけを脳に通し、それ以外の不要なノイズをシャットアウトしています。
「脱力」の正体
よく「脱力しろ」と言われますが、これは「力を抜け」という意味ではありません。 「動かしたい筋肉の邪魔をする筋肉(拮抗筋)に、電気信号を送らない」ということです。
脳のノイズキャンセリング機能が働くと、余計な筋肉への指令が遮断されます。その結果、ブレーキがかかっていないスムーズな動きが可能になります。 これこそが、「体を思い通りに操る能力(身体力)」と「タイミングよく体を動かす能力(調整力)」の正体なのです。
科学が証明!「打球感」に集中すると、なぜ勝手に上手くなるのか?
なぜ、フォームの形ではなく「触り方(打球感)」に集中するだけで、動きが良くなるのでしょうか? その理由は、脳の「雑音カット機能」にあります。
ラジオをイメージしてみてください。チューニングが合っていないと「ザザザ…」という雑音(ノイズ)が混じって音楽がよく聞こえませんよね。 テニスにおける「雑音」とは、以下のようなものです。
- 「失敗したらどうしよう…(不安)」
- 「肘の角度はあってるかな?(迷い)」
- 「もっと力を入れなきゃ!(余計な力み)」
これらが脳内にあると、体への命令がスムーズに伝わりません。
そこで、インパクトの瞬間の「振動」や「音」だけに意識を100%向けてみてください。 すると脳は、「お!今は『手の感覚』が一番大事なんだな!それ以外は全部カットだ!」と判断し、一瞬でクリアな放送に切り替えてくれます。
この「雑音カット」が成功すると、驚くべきことが起きます。 それまで動きを邪魔していた「無意識のブレーキ(邪魔な筋肉の緊張)」が、自動的に解除されるのです。
つまり、「力を抜こう」と頑張る必要はありません。 ただボールの感触を味わうだけで、脳が勝手に余計な力をオフにしてくれ、気づいたらプロのような脱力スイングになっていた。これこそが、センスの良い人が無意識に使っている「脳の魔法」なのです。
3. 今日から「センス」を磨くトレーニング方法
では、どうすればこの「脳のノイズキャンセリング機能」をオンにできるのでしょうか? コート上だけでなく、日常生活や休憩時間にもできる具体的なトレーニングを紹介します。
① 身体感覚への「気づき」を高める(アウェアネス)
無意識に入っている力み(ノイズ)に気づき、それを解除する練習です。
顎(あご)の脱力チェック:普段、無意識に食いしばっていませんか? 顎の力をフッと抜いた時、連動して首や肩の緊張がどう変化するかを観察してみてください。肩がストンと落ちる感覚があれば、それが「ノイズが消えた」瞬間です。
「1cm以内」の微細な体重移動 :信号待ちやレジの待ち時間にできるトレーニングです。 外見からは全く分からない程度(1cm以内)で、ゆっくりと体重を右足から左足、左足から右足へと移動させます。 この時、足裏のどこに圧がかかっているか(圧中心:COP)を精密にモニタリングしてください。
【効果】 微細な重心移動の制御は、大雑把な筋力ではなく、深層筋の繊細なコントロールと感覚の選別が必要です。これができるようになると、スプリットステップ後の最初の一歩の反応速度や、バランスを崩した状態からのリカバリー能力が劇的に高まります。
② 道具と一体化する「ハンドリング」練習
ラケットを自分の手足のように扱うための、休憩中にできるドリルです。
高速ボール突き ラケットでボールを地面に向かって突きます。これを可能な限り高速で行います。 ポイントは、ボールを「押す」のではなく、インパクトの瞬間に「強く当てる(弾く)」感覚を養うことです。手首を固めず、ラケットヘッドの重さを利用して鋭くヒットする感覚を掴んでください。
ボール拾いの達人になる 地面に転がっているボールを、手を使わずにラケットでトントンと叩き、弾ませてキャッチする、あるいはラケット面に乗せる練習です。 これも「押す」動作ではできません。ボールの反発を感じ取る繊細な「触り方」と、一瞬でラケットを操作する「止め」の技術が必要です。この「指先の微細な感覚」こそが、ボレーやタッチショットのセンスに直結します。
③ 自分の体ではなく「結果」に集中する
「肘を曲げて」「膝を使って」と自分の体のパーツに意識を向けると、脳は体の感覚情報をすべて拾おうとしてゲートを全開にしてしまいます。これではノイズだらけになり、センスは発揮されません。
代わりに、以下のように意識を変えてみてください。
- 「ラケットヘッドを走らせる」
- 「ボールをあそこに落とす」
- 「良い音をさせる」
このように、道具や結果に意識を向けると、脳は自動的に「そのためには余計な情報はカットしよう」と働き、ノイズキャンセリング機能がオンになります。これが「調整力」を劇的に高めます。
④ 「失敗」と「成功」の差を感じる
センスを磨くには、正しい動きを繰り返すだけでは不十分です。 「わざと力んで打つ」「わざと手だけで打つ」といった極端な失敗と、成功した時の感覚を比べてみてください。 脳は「差分」を感じ取ることで学習します。「あ、これがノイズ(邪魔な感覚)なんだ」と脳が理解すれば、次からは自動的にそのノイズをカットしてくれるようになります。
4. その他の「センス」を構成する要素について
今回は「調整力」と「身体力」について解説しましたが、テニスのセンスを構成する他の要素も、正しいトレーニングで確実に向上します。
体力
これに関してはシンプルです。テニスの練習中に全力で動き続ければ、テニスに必要な体力は自然と向上します。楽をせず、1球1球追いかけることが近道です。
瞬発力(動き出しの速さ)
「足が遅いから…」と諦める必要はありません。プロの動き出しが速いのは、筋肉量ではなく「スプリットステップ」の技術によるものです。 具体的な習得方法はこちらの記事で詳しく解説しています。
ラケットワークの瞬発力
ショットの威力やキレを生む「ラケットの瞬発力」には、「切り返し」と「固定」の技術を使います。 各ショットごとの具体的な身体操作については、以下のリンクから詳細を確認してください。
まとめ:センスは「選ぶ力」である
「センスがある人」とは、特別な体を持っている人ではなく、「脳が必要な情報だけを選び取り(ノイズを除去し)、効率よく体を動かせる人」のことです。
信号待ちでの体重移動、休憩中のボール突き、そして打つ時の意識の向け方。 これらを変えるだけで、あなたの脳内の回路(シナプス)は確実に書き換わっていきます。
「自分にはセンスがない」と嘆く時間はもう終わりです。 今日から、科学的根拠に基づいた「脳のトレーニング」を始めて、あなたの中に眠る本物のセンスを呼び覚ましましょう!
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